店と改修
初めての店に、決めすぎない内装を。中津「ナカツの器」が柱を残したもう一つの理由
誰が、どんな店を開くのか。店舗を設計するときは、そこから話を始めることが多いと思います。中津の商店街にある「ナカツの器」は、順番が少し違いました。初めて自分の店を開く人が来る。その人が使い方を決められるように、先に場所を整えておく。撮影の中で阿部は「ちょっと見た目が途中みたいには見えるかもしれないんですけど」と、一階の柱の話をしています。

この建物は、壊すことを前提に売られていた
空き家を直した理由をたずねられて、阿部が話したのは建物の価値だけではありません。通りが以前より寂しくなってきたこと。そこに暮らす人は今もいて、若い人と顔を合わせられる場所ができたらいいということ。新しく店を始めたい人にとって、いきなり自分で店舗を構えるにはお金がかかること。ばらばらに見える事情が、この一軒ではつながっていました。
期間を区切って実際にお客様を迎えられれば、つくったものにどんな反応があるか、何曜日のどの時間に人が来るかを、自分の店として経験できます。最初の店を持つ前に、店を開けてみる場所。古い建物を一軒直すことが、そのための準備になりました。

床と柱までは決める。家具と音楽は任せる
一階にはタイルの床があり、真鍮の目地が走り、以前の柱が並んでいます。撮影時に入っていたカフェは、用意された内装をほとんどそのまま使っていました。でも、それは次も必ず同じ店でなければいけないという意味ではありません。必要なら柱の間に壁を立て、自分の好きな場所をつくってもらえるようにしてあります。
聞き手が挙げたのは、ここに何の家具を置くか、流す音楽をどうするかという話でした。どちらも店の空気を変えるのに、古い柱を一本取り払う必要はない。床と設備は建物を直すときに用意し、お客様をどう迎えるかは、実際にそこで働く人に残す。途中のように見えるところは、手を掛け忘れた場所ではありません。
撮影の後半で、店主さんはケーキを目当てに来てくれる方のことを話します。もし家具も商品の並べ方も先に一つの正解に決めていたら、初めて来た人が立ち止まる場所や、思いのほか持ち帰りが増えた時間帯に合わせて、店主自身が変えられることは少なくなってしまいます。

通りで「こんにちは」と言える距離
若い方が歩き、以前からこの街に暮らす方が顔を出して挨拶する。動画の中で聞き手が触れているのは、人数の集計でも、商店街全体の変化の証明でもありません。その日に自分がそこにいて気づいた、人と人との距離です。
花を教える場所かもしれないし、ギャラリーかもしれない。次に入る人には次の使い方がある、と阿部は話します。長くもつ建物を考えるとき、最初に決めた用途を長く守る方法もあり、次の使い方を残しておく方法もあります。「ナカツの器」が一階につくったのは後者でした。いまその柱の間に自分の机を置くなら、どんなお客様を迎えたいでしょう。










