店と改修
商店街のカフェを、通りに開かなかった人。
中津の商店街でカフェを開くのに、通りからお客様を呼び込む大きな窓をつくらない。撮影でも、そのことが話題になった。「もっと開いた方がいいとかありそうなんですけど」。阿部の返事ははっきりしている。「開きたくないというご要望だったので」。それが店を持つ人の、最初から大切にしていた条件だった。

来てほしい人が決まっていた
この場所には、かつて住まい手のご実家があり、商店街で商売をしていた。その跡に、50代の女性が一人で暮らす家と、予約で人を迎えるカフェを建てた。周りには若い人が好むカフェがすでにある。自分と同じ年代、あるいはもう少し年上の人がゆっくり集まれる場所がほしかったという。
遠方から大勢を呼びたい店と、近くの人に長くいてほしい店とでは、入口の答えは同じにならない。ふらっと店に入れる開放感がうれしい人もいれば、道から顔が見えず、話に集中できることがうれしい人もいる。住まい手は何軒もの工務店を回り、なかなか思うようなプランが出ず、グレースホームにたどり着いた。ここでは「商店街の店らしさ」より、その人が迎えたい相手の話が先に来た。
延床18坪。そのうち6坪が店で、住まいと店は中庭を挟んで向かい合う。日々の居場所から店が遠すぎない。だからといって、店に入ったお客様がそのまま自宅の居間に足を踏み入れるわけでもない。小さな建物の中に、外を一度挟むだけの距離を取った。

同じ高さの床で、靴を履く人と脱ぐ人がいる
中庭の向こうに見える床と、こちら側の床の高さはそろっている。店は土足のまま使う。住まい側に厚みのある仕上げを張れば、その分だけ床の位置が上がってしまう。設計の線の上では一続きにできても、実際に何を張るかまで決めなければ、その線は段差になる。
室内の柱も一本、ちゃんと目に入る。リビングと台所を分ける目印にはなるが、その脇を壁で塞いではいない。いずれ冷蔵庫や洗濯機を違うものに替えたとき、配置を選び直せるようにしておきたかった。お店と一人の暮らしが続いていくうちに、家の使い方を自分で変えられる余地がある。

ここで暮らす人の手を残す
店へ向かう足元には、建て替え前から敷地にあった石が並ぶ。並べ方を決めたのは住まい手自身だ。アガベも元からあったものを移した。新しい店舗の入口に何を買いそろえるか、という話からは生まれにくい景色だと思う。
この女性は、家を建てる相談の初めに、いずれ解体するときのことまで考えてほしいと伝えている。これから暮らす自分が気持ちよくいられること、その後で片付ける人に負担を残しすぎないこと。それと、前の家の石をもう一度使うことが、ここでは無理なく並んでいる。通りに閉じた店の入口をたどると、誰に開きたかった店なのかがようやく見えてくる。











