光と素材
包丁の先に、自分の影を落とさない。
北九州の平屋で照明の話を聞いていると、さっきまで海を見ていた人が、今度はキッチンの手元をのぞき込む。住まい手が好むのは、あたたかい電球色だ。ただ、まな板の上まで同じ色でなくていい。夕食をつくる人のために、ここだけ昼白色の明かりを選んでいる。

同じ部屋に、二つの明るさ
窓の前には黒いワイヤーのペンダントが下がる。リビングからは、その細い線の向こうに街と海が見える。同じ部屋の中でも、食卓にいる人が眺めているものと、キッチンに立つ人が確かめたいものは違う。前者は部屋の広がりで、後者は手元のずっと小さな範囲だ。
照明を決めるときは、料理する人の顔が明るいかより、その人が下を向いたとき何が見えるかを確かめたい。切った断面や肉の焼き色は、食卓に座って部屋全体を見たときには案外小さい。

真上に付ければ手元が明るい、とは限らない
撮影では「自分が影になりますよね」という話になる。作業台の真上に器具を一つ描いた図面だけを見ていると、その光を遮るのが誰なのか、つい忘れてしまう。そこで少し斜めから当て、光源自体が目に入りにくい器具を使った。明るさを足すことより、立つ人の肩と手の位置を決めてから、光を来させる向きを決めたところがおもしろい。
この選び方なら、部屋全体を強く照らして落ち着かない食卓にする必要もない。火を使う手元へ届く光と、向かいから座って眺める光源。図面では同じ一つの印でも、実際には二方向から見る器具だ。
食卓の人の目に入るもの
二列に分かれたキッチンは、住まい手がショールームで気に入ったものだ。調理する側では手元を見やすくしたい。でも、リビング側から見たときに、青白い光源がひとつだけ目立つのは避けたい。そのつなぎ目に、光源が直接見えにくい照明を選んだ理由がある。
部屋の色を電球色にするか昼白色にするか、と二者択一で決めていたら、どちらかが我慢することになっただろう。この家では、食卓の席を立って台所へ行くと、同じ空間の中で、ちゃんと手に必要な明るさが待っている。










