光と素材
鏡がある、と気づくまで。中津の海辺の家で左官と鏡の順番を入れ替えた話
中津の海辺の家で、聞き手が壁に近づいて振り返ります。さっきまで、まだ奥に部屋が続いているように見えたところです。「これって鏡が入ってるだけですか?」。映っていたのは、いま自分が通ってきた家。そう見えるまで、現場ではどんな手間がかかったのでしょう。

枠が消えると、映っているものが先に見える
鏡を壁に掛ければ、その形や枠が目に入ります。ここで見せたかったのは鏡という道具より、壁の先にもう少し空間が続くような見え方でした。そこで鏡を一面に入れ、枠が目立たない納まりを選んでいます。
ルームツアーでは、どこからどこまでが映り込みなのか、訪ねた人が立ち位置を変えて確かめています。映る方向が少しずれるだけで、食卓が映る鏡にも、外の光を拾う鏡にもなります。取り付ける面積だけでは決まらないところです。
鏡の正面に立てば自分が映ります。通り過ぎる人には、顔の代わりに部屋の先が映る。大きな鏡を姿見として使う場面とは、ほとんど逆です。鏡を掛けたことが一目で分かる立派な枠では、今回ほしかった奥行きは生まれにくかったはずです。

壁の仕上げから逆算した順番
先に壁を仕上げ、後から鏡をはめると、鏡と壁との境目に隙間が残りやすい。この家では、先に鏡を入れて、その際まで左官で仕上げました。完成写真に写るのは細い一本の境目ですが、その手前では職人がどの順で現場に入るかを決めています。
きれいな隅にするために、先に取り付けた鏡を守りながら、次の作業を進める必要もあります。ひと手間は、見た目に線を一本足すためではなく、線を目立たせないためにかかっています。
仕上げはモルタルのかき落としです。鏡のすぐそばに濡れた材料が来る以上、ここだけ最後に仕上げればよい、とはいきません。扉の際や上端の納まりも含めて、どの段階で塗り、どこまで一度に仕上げるか。撮影で阿部が「一発勝負」と呼んでいるのは、完成した一面からは読み取りにくい、職人の手が動く順番の話です。

次は、入口から歩いてみる
この家の写真には、大屋根も海も写ります。小さな枠のことを知らずに見ても、広さは感じられます。でも一度この話を聞くと、壁の際に目を寄せてから、もう一度入口へ戻りたくなる。近くで見た細い境目が、数歩離れたところからはほとんど意識に上らない。その数歩分のための左官です。










