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土地と窓 

北の窓に、海があった。

「消しても明るいですよ」。北九州の平屋を案内していた阿部が、リビングの明かりについてそう言った。大きな窓の向こうには街があり、その先に海が見える。海があるのは北側だ。南側には道路が通っていて、家はそちらに背を向けている。この窓の話をするには、まだ窓も家もなかったころに戻る必要がある。

北の大きな窓から街と海が見える LDK。窓際に木のカウンター、左に黒いキッチン、黒いワイヤーのペンダント
北の窓から、街と海を見渡す LDK。

通りからは見えなかった

この土地をお客様に提案したのは阿部だった。ルームツアーで当時の土地の様子を尋ねられ、「最初は入れない状態だったんですよ」と振り返っている。通りに立っているうちは、奥の視界が開けていることすら分からなかった。中へ分け入ると街と海が見えた。そこで初めて、候補に挙げたい土地になった。

ご夫婦が初めからオーシャンビューを指定して探していたわけでもない。阿部が土地を一緒に探すときに、先に尋ねるのはどんな家でどう暮らしたいかだという。家に必要な予算を見て、そのうえで買える土地を探す。この順序だったから、通りからの第一印象だけでは手を挙げにくい一画も、自分の足で見に行く候補に入った。

敷地は95坪。奥へ行くほど少し幅が狭くなる。ここに、ご夫婦とこれから生まれるお子さんのための、延床30坪の家を建てた。窓の向きも建物の形も、隣の整った敷地から借りてくることはできない。この場所について分かっていたのは、南に道があり、北にこの眺めがあることだった。

黒いワイヤーのペンダント越しに、LDK の窓の外に広がる街並みと海
この眺めが見えて、土地の候補に挙げた。

電気を消す話になった

「ってことは道路側が南ですか」「そうです。南側には開いてません」。ルームツアーで方角を確かめると、案内する二人の会話が少し立ち止まる。明るい居間をつくるなら、南に大きな窓を取る。よくあるその図面をここで描いたら、いちばん大きな窓の正面に来るのは道路だ。

阿部が北側を開いた理由は二つある。街から海までを部屋の中から見渡せること。もう一つは、夏の強い日差しを大きな窓から入れたくなかったことだ。北向きの窓と聞いて感じる暗さを、目の前の部屋はどう見せるか。その答えが、撮影中の「消しても明るいですよ」だった。方角の説明を聞くよりも、電気が要るかどうかという一言のほうが、この家で過ごす昼を想像しやすい。

リビング自体はとりわけ広く取ってはいない。窓に沿ってカウンターをL字に回した。プロジェクターを置くこともできれば、そのまま腰掛けてもいい。脇からは中庭に出られる。図面の上では長い廊下に見えるところで、人が足を止められる。海を見るのに、特等席のソファを一脚だけ用意した家ではないのだ。

LDK の北の窓越しに、斜面の下へ広がる街並みと、その先の海
北の窓の外に、街と海が広がる。

花火の翌日も使える部屋

案内がひととおり済んだところで、まだ上があると分かる。いつもの暮らしは一階で完結する平屋だが、階段の先に一室だけある。そこから見たいものは、関門海峡の花火だった。

ただ、建物がないうちに「ここなら花火が見える」とは言えない。そこで阿部はドローンを飛ばし、どの高さまで上がれば視界が開けるのかを確かめた。見えそうだと分かってからお客様に相談し、花火を見る場所がほしいという希望につながった。先に「花火の部屋」を図面に描き、後から景色を合わせたのでは順序が逆になる。

屋外のテラスにする案もあった。けれどテラスのままでは、使う場面はどうしても限られる。室内にカウンターを設ければ、ご主人は普段ここで仕事ができる。花火を見るために確かめた高さが、そのまま毎日の書斎の高さになった。上から見下ろすと、土地が細くなるにつれて屋根が少しずつずれているのもよく分かる。

この家に来て最初に目を引くのは、北の窓いっぱいの海だろう。けれど話を聞き終えると、もう一度見たくなるのは道路の側だ。完成したいまなら誰にでも見えるあの景色が、土地を探していた日には、そこに立っても見えなかった。

上の部屋へ上がる階段の黒い手すりと、その先の窓
上の部屋へは、階段で上がる。

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