間取りと家事
玄関の向こうで、猫が出迎える。
「お、お、お、猫ちゃんがいますよ」。夜、中津の海辺の平屋を訪ねた人が最初に見つけたのは、そこに暮らす猫だった。玄関からダイニングまで床が続いていて、間に扉はない。なのに、入ってすぐのところからは食卓が見えなかった。海を一望するために建てた家で、見えないようにしたものの話である。

「間取りは?」に、ちょっと答えにくい
昼に撮影した案内では、間取りについて聞かれて阿部が答えに迷う。台所はある。ベッドを置くところもある。ただ、扉を一つ開けるごとに「ここが寝室」「ここからが食堂」と数えられるつくりではない。設計した本人にとってさえ、何LDKと答えるほうが難しい。
大屋根の下に、二つの箱が置かれている。一方に台所や冷蔵庫、収納などを納め、もう一方には洗面や浴室、ランドリーが入る。箱を外壁と少し角度を変えて置くと、その脇に三角の隅ができる。食卓から先にも空間が続く気配はするけれど、隅に置くベッドは食卓の正面には出てこない。壁で一間を囲わなくても、横になる人には自分の場所がある。

来客が立つ位置で、食卓の見え方が変わる
夜の動画に戻る。入口で靴を脱ぎ、平らな床を少し進む。正面からは見えなかったダイニングが、体の向きを変えると見える。外に近い側に腰を下ろせば、食卓を囲むときには玄関だった場所までひと続きに感じられる。配達の人が玄関先に立つ時間と、招いた友人が奥まで上がる時間。ふだんは同じ床でも、招き入れる距離を住む人が選べる。
もちろん靴の置き場はいる。箱の中にそれを設けた。同じように、台所にも閉められる引き戸がある。夕食をつくる間は開けてよく、使わない日には台所そのものを視界から外せる。ところが、毎日使うオーブンレンジだけは箱の外に場所を取った。休みの日に飲み物を温めたいだけなのに、台所全部を開けるのはおっくうだ。住まい手が何をしまいたくて、何は出しておきたかったか。見た目をそろえるだけなら、たぶんこの例外は残らなかった。

海が見えなくなったあとの窓
昼の窓からは、遠浅の海と干潟が見える。夜には海沿いの明かりが窓に映る。外から家を見ると、大きな窓の上のほうには室内の照明が見えるのに、生活している低い位置は隠れている。昼と夜を続けて見ると、一枚の窓が時間によって違う顔を持つことが分かる。
夜、玄関の足元には低いところから明かりが届く。大屋根の天井に照明を均等に並べることはしなかった。光が床の近くにあるから、次の一歩を見失わず、天井は暗いまま残る。訪ねた人が歩いて初めて、どこがつながり、どこが少し隠れているかが見えてくる。入口からすべてを見渡せなくてもいい。この家で最初に目が合ったのは、食卓の向こうの人ではなく、出迎えに来た猫だった。









